スマホゲームというグローバル市場でヒットするコンテンツとは? 求められる人材とは? 浅草にてクリエイティブについて語り合ったマルチクリエイターの広井王子氏と、プロデューサーの今泉、社長の川本の三名だったが、今度は日本のゲームコンテンツが世界で勝つために必要なことを、広井氏が懇意にしている老舗料亭でじっくり腰を据えて語り明かした。
◆プロフィール
広井 王子(ひろい・おうじ)
1954年東京都墨田区向島生まれ。立教大学中退。立教大学在学中に自主制作映画集団にもぐり込み、クリエイティブ活動を開始。レッドカンパニー(現 レッド・エンタテインメント)を立ち上げ、アニメ、TVゲーム等のヒットを飛ばす。コミック、小説、アニメ、TVゲーム、舞台、SNSゲーム、TVドラマ、ラジオドラマなど、多数のエンターテイメント作品を手掛ける。近年ではネクスト・メディア・アニメーション(台湾)のCCOに就任するなど海外でも活躍。代表作は、『天外魔境シリーズ』、『サクラ大戦シリーズ』、『魔神英雄伝ワタルシリーズ』。2018年、吉本興業が立ち上げた「少女歌劇団」の総合演出を務めることが発表された。 「第1回 CESA大賞」、「東京国際アニメフェア キャラクターデザイン賞」、「第17回 日本ゴールドディスク大賞 アニメーション・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞。その他、数々の賞に輝き、キャラクターメーカーとしての不動の地位を固め、現在なお、新しい形のエンターテイメントを模索し続け、あらゆるエンターテイメントメディアを串刺しにした型のキャラクターマーチャンダイジングを世界に発信している。
川本 寛之(かわもと・ひろゆき)
京都大学卒業後、日本政策投資銀行に入行。ベンチャー投資業務の経験を経て、2011年に株式会社gumiに入社。上場に向けた資金調達や国内外企業とのアライアンス、管理部門の再築等を主導。2016年に代表取締役に就任し、モバイルオンラインゲーム事業を管掌し、事業部門も含めた組織マネジメント強化にも取り組む。
今泉 潤(いまいずみ・じゅん)
ドラマや演劇のプロデューサーとして映像制作を手がけた後、2010年7月に株式会社gumiに入社。ブラウザゲームを経て『ファントム オブ キル』『誰ガ為のアルケミスト』といったオリジナルタイトルを多数プロデュース。企画、開発、運営をはじめクリエイティブからプロモーションまで、ゲーム作りの最前線にてその全ての指揮を執る。
撮影/恩田拓治 取材・文/金井幸男
「gumiショック」を乗り越え、現場と経営が一つに
今泉がスクウェア・エニックスと共に手がけ、2020年6月に1,100万DLを超えたスマホゲーム『WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争』(株式会社スクウェア・エニックス配信)。2019年11月のリリース以降、順調にユーザーを増やし、国内はもちろん海外でもメジャータイトルになりつつある。その勝因、特に海外でも受け入れられた理由とは?
川本: 『FFBE幻影戦争』が海外でも好調だけど、IJ(今泉氏の愛称)はどう捉えている?
今泉: gumiは『ブレイブ フロンティア』や『誰ガ為のアルケミスト』といったオリジナルタイトルを比較的早いタイミングで海外に展開してきて、その経験が生きたと思う。ローカライズによって、どう配信すればどれだけの収支になるかを分析してきた成果だよね。
海外ユーザーの特性がわかっていたので、課金率を踏まえた最適な客単価の設定ができている。これは、これまでに地道なマーケティングを行ってきた賜物でしょう。あとは僕の努力とセンスと、ビッグタイトルの融合かな(笑)。
川本: 実際、スクウェア・エニックスのファイナルファンタジーというIP(ゲームタイトルやキャラクターなどの知的財産のこと)の力は大きいよ。
ただ、シンガポールに進出した2012年から自社タイトルを五つほど海外配信し、当たりハズレを経験したことも重要だった。チャレンジした分、IJの言う通り各地のユーザー特性が蓄積でき、フィードバックも大きかった。この学びがなければ、ファイナルファンタジーのネームバリューも、最大限には発揮できなかったと思うな。
広井: 映画もそうだよね。黒澤 明さんや小津 安二郎さんといった実力のある監督が海外の道を切り開き、データを残してくれたから後続が生まれた。しかも、そのデータを見ているのは監督じゃない。配給会社の社長なんだよね。ちゃんと役割分担しながら二人三脚で成果を出している。
つまり、今泉くんがチャレンジし、川本くんがデータを見て、安定収益に繋げるという流れを作ってきたわけだ。
川本: おっしゃる通りです。ただ、この体制ができるまでには紆余曲折だらけでした。
今泉: 特に2015年に起きた「gumiショック」の再来だけは絶対勘弁だね。あのときは、僕がプロデュースした『ファントム オブ キル』が月商で5億円も売れて調子が良かっただけに、突然聞かされて衝撃を受けた。
川本: 広井さんにもイメージしやすいように「gumiショック」について補足すると、gumiは2014年12月に東証一部に上場したんですが、その直後に、海外版の『ブレイブ フロンティア』の売れ行きが想定を大きく下回ったことなどにより、業績予想の大幅な下方修正を出すことになってしまいました。
原因は海外での経験が不足していたうえに、海外拠点の管理が十分に行き届いていなかったこと。
今泉: 「gumiショック」の真相を、ぜひ川本さんの口から聞きたいな(笑)。
川本: ここはちゃんと話さないと色々と炎上を招くので、また別の機会で(笑)。
広井: それで、その危機をどう乗り越えていったの?
川本: まず、各事業部に一回裁量と責任を持たせて、1年~2年で結果を出してください、と試しました。結果、事業としてうまくいって残ったのはIJのチームだけだったのですが、この間、色々な施策を試す中で、失敗したことも、次こうしたいということも、お互い本音で話せたことで現場と経営がしっかり連携できるようになりました。
今泉: 俺は迷惑だったけどね(笑)。その後の『誰ガ為のアルケミスト』と、直近の『FFBE幻影戦争』がヒットしたおかげで、会社としては復活につながったと。
川本: まだ復活とは言えないけど、ようやく基盤が強くなってきた実感はある。少なくとも「gumiショック」によって、gumiが組織として一つになるきっかけを得たのは間違いないね。
広井: 組織は一回大きな失敗があると、当然、繰り返さないために体制を整える。経理でいえば、帳簿もしっかりつけるようになって、チェック機能ができるようになったりする。
変化していく体力がない組織もたくさんあるなかで、失敗しながらでも改善できていくことは良いことだよ。「gumiショック」があったから、gumiも強くなってきたんだと思うよ。
川本: かつてのgumiは、予算の分配にルーズなところもありました。今はより精査し、ただバラ撒くのではなくて、適切に予算配分するようにしています。
自分はクリエイターではありませんから、ゲーム制作は現場に任せるのですが、その人材やチームを判断する目を育てることが重要だと思っています。実は過去に大きく間違えたんですよ。有能な人材を集めるのに肩書きや経歴を偏重してしまって……。
メジャーリーガーだと思って登用したら、ただ素振りが上手いだけだったパターンがしばしば。自称スーパーマリオの制作クリエイターはたくさんいます。でも、実際に作ったといえるのは一人なんですよね。見極めをしっかりしないといけなかった。
より躍進するにはダイバーシティの推進と後進育成が急務
gumiにおける海外展開の話から、日本発のスマホゲームがワールドワイドになり切れない、マクロな課題へと会話は深まっていく。
広井: 世界に打って出るには、どんな人材に投資するかは重要だよね。あとは今泉くんが切り開いた道を生かせる、次世代プロデューサーの確保も大事。
若い会社は立ち上げた一期メンバーから三期くらいまでが濃くて、以降が続かずに終わってしまいがち。今後、gumiが一皮剥けるには、「ネクスト今泉」率いる次世代の新チームが欠かせないと思うな。
今泉: そうですね。後進の育成は急務です。そして、世界で勝てないことが日本のゲーム業界全体の課題。ゲームの市場はグローバルなのに、日本発信のオリジナルコンテンツは自国でしかヒットしていません。一方、中国は日本に照準を合わせたゲームを、中国本土でもしっかりヒットさせています。しかも中国市場は規模が日本とは桁違い。狙わない手はないんです。
しかし、日本のメーカーは国内競争が熾烈過ぎて、小さなフィールドでの勝敗に縛られている気がします。もちろん、開発に投下できる資金の少なさも足を引っ張っていますが。
広井: まず実績を出してからじゃないと、日本では投資されないからね。特にエンタメ系でアメリカンドリームを叶えるのは厳しい。加えて、グローバルな人材も足りないよ。海外から優秀な人材を連れてきて社内で鍛えたり、中国人を新卒正社員として迎えたりしていかないと。
僕は台湾で5年暮らしてネットワークを作り、本当に役立つ人材を探したことがある。現地を知ることは、市場調査の意味でも重要だと思う。gumiに関していえば、取締役に女性がいないのもダメだね。海外を狙う、それこそ全方位外交が求められるんだからさ、男だけの目線じゃマズい。
あと、中国や韓国の人材のように、日本人と違う見方ができる人を入れたほうが絶対に良いよ。目的の土地を知るのに広告代理店が渡してくる紙だけで判断しないこと。あとは若手でも良いから身内を現地へ派遣すべきだね。
今泉: なるほど。実はgumiは中国以外では健闘しているんですよ。海外売上だけで年間数十億円ありますから。しかし、中国で戦うには、日本での公開から18年後に中国で公開された『千と千尋の神隠し』がヒットした宮崎 駿さんのように、「日本の才能」として認められないといけない。いずれにしても、日本に縛られていては中国やその他の海外で売れない。一方で、海外を意識し過ぎてもうまくいかない。そこのバランスが非常に難しい。
厳しさはある、だが夢が持てる場
長きに渡って世界各地のデータを蓄えて分析し、海外でも確かな手応えを感じていた現状でも、巨大な中国市場への進出は困難だった。解決のキーとなるのは、大きな予算を託すに足る人材だ。ではそもそも、ゲーム制作に必要な資質、向いている人間性などというものはあるのだろうか?
広井: これからのゲーム作りは作業的な面が合理化される分、ベースになるアイデアで差がつく。発想力を磨くには経験や教養がマストだから、色んなことを吸収できる人じゃないとキツいかな。
かといって、頭が良くなきゃダメってわけじゃないんだ。勉強ばっかりではね……。人と上手に付き合えるキャラでないと。そして、好きだから・気持ち良いからを原動力にできるのが一番大事。
今泉: 広井さんはゲームはしないんですよね。たまたまゲームクリエイターになっただけ。僕もゲーマーじゃないんでわかります。ただ、音や映像、物語、キャラクターものが好き。ゲームが好きってだけでは、視野が狭すぎかもしれませんね。ゲーム好きというより、それらを構成する音や映像、物語、キャラクターなど、何らかのエンタメが好きってくらいで良さそう。
広井: そう、ゲームが好きなだけでは難しい。人を喜ばせるのが好きってくらい範囲を広くして、ゲームはその一つです、程度でも良いかも。
いずれにせよ、ゲームを楽しむいちユーザーから、クリエイターへの川を渡るのはとても大変。散々言ってきたワガママを聞く方に回る。これがしんどくて、多くの人がリタイアする。生半可な気持ちだとお互いに苦しむから、悩むくらいなら来ない方がいい。それでも乗り越えられるなら、こんな楽しい世界はないけどね。
今泉: 僕らはゲームをし、映画を観て、本を読む。はたから見たら遊んでいるように見えるし、実際仕事の半分は遊びなんですよね。インプットは欠かせませんから。だけど、もっと大事なのはアウトプット。得たものをゲームに反映させて初めて仕事が成立するんで。
ただ遊んでいるだけでは、例えば役者志望の子が映画観ただけで、研究しています、頑張っていますって言い張るのと同じ。広井さんだって、あれだけ多くの本を読んでいながら何も作ってなきゃただの本好きですもんね(笑)。
アウトプットを因数分解して、これができたから自分は頑張っている、と客観的に分析できる人間にならないと。特に今はSNSをはじめ、色んな手段でアウトプットできる時代なのに、みんな完璧になるまで出さないんですよ。評価されることにビビっちゃいけない。
広井: 常に学ぶ意欲が大事。新しい技術やデバイスが次々と誕生する世界だから、自分をアップデートしていかないと追いつかない。あとは、実直さもほしいよね。今ではパワハラって言われると思うけど、「そこに立ってろ!」と言ったら立っているくらいの素直さ。飲み会の場に、面白い話を三つ持ってこいと言ったらちゃんと三つ以上用意してくるとか。そういう人ほどよく一緒にご飯を食べたし、今も活躍しているんだよね。
今泉: 昔の広井さんはかなり厳しかったですからね(笑)。あとは、貪欲さも大事ですね。僕は新人の頃何もわからなくて、それなのに給料がもらえちゃって、会社に対してとても申し訳なく思いましたから、トイレ掃除とかも率先してやっていました。なんとか仕事を覚えてアウトプットしようと、先輩のゴミ箱からこっそり企画書や資料を拾ってコピーし、参考書代わりにしていましたよ。
川本: そういう、本当に頑張って結果を出す人間に報いるのが自分の仕事。gumiはエンタメ企業なんだから、良い人材に来てもらうためには、金銭的にも夢が持てる場でもあるべき。社長は私ですが、私以上に高給の社員がたくさんいてほしいと思っています。みんなが熱意を持ってクリエイティブに取り組め、結果に対して正当な報酬がもらえる。そんな環境を実現させているつもりです。
今泉: ゲーム制作の環境としては悪くないよね。僕は仕事に対してかなり厳しいけど、チームに強く求めるのは作品への忠誠心だけ。
移ろいやすい時代だからこそ、人を喜ばせる行為に忠実でいてほしいな。僕のチームでは、自分はフレームを作り、後はメンバーがくみ取って各々感じたように作っていく。もちろん最終的なジャッジは自分がするけど、クリエイティブの自由度はかなり高いはず。
広井: 環境だけでなく、まだまだgumiは伸び代があるのが良いね。ゲームで一発当てたいなら、これから大きくなろうとしている会社に入るべきだから。「俺がgumiを食わしてやる」くらいの気概がある人に来てほしいよね。
でもさ、川本くんと今泉くん含め、gumiのスタッフはみんなちゃらんぽらんな顔でカッコ良いよ。全員がキチッとしていたら窮屈で、良いクリエイティブなんて生まれないもの。
ゲーム業界だから大きなことが実現できる!
有意義な時間を過ごし、気持ちも新たに日本のゲーム業界を盛り上げていこうと誓い合った三人。いずれは力を合わせて、クリエイティブな仕事を成し遂げようとも語り合った。
濱田家から家路につく各々が、ゲームに携わっている、またはこれから参入しようとしている若手に向けてメッセージを贈った。
今泉: 我々は共感を作る仕事です。これ面白いんだけどどう? って友達にやるのは素人。誰だって自分のオカンを感動させて泣かすのは簡単ですよね。忘れちゃいけないのは、ゲーム制作は身内だけでなく、第三者に影響を与えられるポジションだということ。
キャラクターにメッセージを乗せ、生身の自分が持っている以上の発信力で、知らない誰かの心を動かすことができるんです。当然、他人の心に響く作品を作るのはすごく大変。ユーザーの時間を奪う以上は、相応の批判があるのも覚悟しなければならない。でも、だからこそゲーム制作には感動を生み出す面白さがあるんだと思います。
川本: gumiのトップとして求めるのは、ハングリーだけど謙虚に学べる人材。評価は結果中心で判断されるので、厳しくみえるかもしれません。
ですが、正しく頑張っているなら、結果が出るよう手を差し伸べてくれる先輩がいます。IJのような、キラキラしたお手本だっています(笑)。積極的に彼らから盗み、どうすれば自分にチャンスが回ってくるか考え、行動することが重要だと思います。結果を出せば、必ず評価される環境を作って待っています!
広井: ゲームには音楽にアート、文学、ムービー、いろんな要素が詰まっている。だからこそ、あなたが望んだ夢を実現できる、表現できるルートがあるかもしれない。やりたいと思ったら迷わずチャレンジするべき。若い人はリセットボタンをたくさん持っているから。限界点まで試して、辞めたくなったら抜けても構わない。
今、日本映画で多額の予算を確保するのは困難だけど、ゲームなら可能。映画を超える規模のものを作れるなら、ワクワクするよね。
この先はもっと産業として大きくなっていくだろうし、VRや音声入力みたいなテクノロジーも発展していく。ゲームはまだまだ始まって30年強の業界。そろそろ新しい表現方法を若い人たちが生み出すタイミングなんだと思うよね。
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